どうでもいい本と、どうでもよくない本で、本屋は溢れ返っている。誰かにとってどうでもいい本は、誰かにとってどうでもよくない本だ。つまり、取るに足らない本など存在しないのだ、たぶん。
そんなことを考えていると、本が一冊ずつ語り出す。ある本は淡々と、ある本は怒りながら、ある本は歌うように。
本のお喋りは止まらない。膨れ上がる無秩序なノイズ。それはスズメバチの大群のように、いずれ一つに収束して獲物を襲うから、私はいつも逃げ出してしまう。
大好きだった本屋に、長居ができなくなったのは、こんな理由だ。
お喋りなのは本だけではない。スマホから、パソコンから、テレビから、どうでもいい情報と、どうでもよくない情報が、際限なく湧いては押し寄せてくる。混乱も発狂もせずに、涼しい顔でいるには、どうしたらいいのだろう。
世界は饒舌すぎるのだ。
という私のつぶやきもまた、あまたのノイズの一つになるという皮肉。
精神科医に、この話はしないと決めている。新たな病名を付けられてしまいそうだから。