「ビーカーに泥水を入れて、そのまま静かに置いておくと、沈殿した泥と水に分かれます。」
小学校の理科の教科書で見た、この実験の写真が好きだった。何かを暗示しているように見えたから。
恐らくそれくらいの歳には、心の中の泥を沈殿させることを覚えていたのだと思う。それが100%キレイでなくても、上澄みを飲めば生きていけるのだ。
そうやって何十年も過ごしてきたのに、今でもうっかり沈殿した泥を巻き上げてしまうことがある。茶色い視界に反応した意識が、即座にブレーカーを落として私を眠らせる。この泥はいつから私の中にあるんだろう。何からできているんだろう。医者は深追いするなと言うけれど。
思い出したいような
思い出したくないような
思い出してはいけないような
目が覚める頃には、泥は大方沈んでいて、やっと飲めるくらいの水ができている。人というものは本当にうまくできているなと、つくづく思う。