大人になれば、怖いものなんてなくなるんだと信じていた。それなのに、大人になっても怖いものは怖い。
私は「人の形をした大きい物」が怖い。
例えば、毎年初詣をする近くのお寺。入り口には、睨みをきかす一対の仁王像。私は、それらが視界に入る前から怖い。仁王像を見ないですむ横道からお寺に入ろうと、一応家族に提案してみる。しかし彼らはそんな私を面白がって、聞く耳すら持たない。
参道をまたぐ門をくぐると、200mほど先で待ち構えた仁王像が、いよいよ視界に入ってくる。私は武井壮よろしく、彼らが襲いかかってくる場面を、脳内でシミュレーションしようとする。……ダメだ、どうしたって勝てっこない。そんなこんなしているうちにも、仁王像との距離はどんどん縮まっていく。
どうする? どうする? どうする? どうする?
恐怖心が最高潮に達したその時、意を決した私は、ダッシュで仁王像の間を駆け抜ける。背後に像の気配を感じなくなる所まで、一心不乱に走り続ける。正月の安穏とした空気を破り、突如走り出す中年女。奇怪な上に甚だ迷惑だが、背に腹はかえられない。
荒い息で振り返ると、家族は門の向こうで爆笑している。あいつらが仁王像に襲われても、絶対に助けてなんかやるもんか。新年最初の決意は、大抵これである。
「仁王様は悪い人がお寺に入って来ないように、わざと怖そうにしているんだよ」と幼子の私に教えたのは、確か祖父だったと思う。それを聞いてもやはり仁王様が怖い私は、きっと悪い人間に違いないと自分を責めたあの日。
でも、大人になった今ならわかる。事実として、奴らは怖い。
筋骨隆々の身体、それを強調するボディービルダー顔負けのポーズ、人のものとは思えぬ赤と青の肌に、ギョロリと剥いた目の白さが映える。
そして何より、奴らはデカい。
……ここまで一気に書いて、手の力が抜けかけていることに気付いた。少し休憩して、続きは(2)で書こうと思う。
ほら、やっぱり怖い!みんな無理してるんじゃないの?
✄--------------おまけ--------------✄
子供に仁王像の股をくぐらせるという奇習が、全国的にあるらしい。
例えばここ ⬇︎
泣いている子供に同情を禁じ得ない (´;ω;`)ブワッ